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日経エコロミー

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ヒトは温暖化に克てるか(橋本賢)

排出量取引の「マネーゲーム論」考(08/09/30)

橋本賢(はしもと・さとし)
三菱総合研究所地球環境研究本部地球温暖化対策研究グループ主任研究員。96年東大大学院工学系研究科卒。同年三菱総合研究所入社。専門は排出権取引を中心とした地球温暖化防止政策。海外の政策動向調査や企業向け温暖化防止対策に関するコンサルティングを手がける。趣味はテニス、旅先での食べ歩き、ボードゲーム。

 いっきに秋めいてきました。夏の間、あれ程までにすさまじかった雷の記憶も薄らぎ、天を仰ぐといつの間にかいわし雲が広がっています。こんな時こそ、どこかへ出かけたくなるもの。わが家でも、近場の温泉を物色し始めたほか、地元沿線のお出かけスポットをパンフで取り寄せました。

 三連休にも恵まれるこの時期、みなさんのご予定はいかがですか?

■排出量取引における「マネーゲーム」への懸念とは

 先日、欧州気候取引所(ECX:European Climate Exchange)のバーレイCEOが来日したのを受け、あるテレビ報道番組で排出量取引のコーナーがあり、私もコメンテーターとして出演させて頂きました。その時、キャスターから欧州の状況とか、日本で今秋予定されている排出量取引の「試行」などについて、色々尋ねられたのですが、その中で印象的な質問が一つありました。それは、

 「排出量取引については、マネーゲーム化する心配の声も聞かれますが、実際のところ大丈夫なのでしょうか?」

といった質問でした。

 福田ビジョンの中でも、排出量取引について「マネーゲームが排除される、健全な、実需に基づいたマーケットを作っていくことが重要であると思います」と語られているように、排出量取引がマネーゲームの場になってはいけない、といった議論がここ半年あたりよく聞かれます。マネーゲーム自体や懸念される影響については必ずしも共通のイメージがある訳ではないのですが、おそらくは

・排出量取引が導入されると、投機資金が流入して排出権の価格が高騰し、製造業の経営が圧迫される一方で、金融業ばかりが「儲かる」のではないか。

・排出権の短期的な価格変動が大きいと、長期的視点で技術開発などの排出削減対策に取り組みにくくなるのではないか。

といったイメージではないでしょうか。冒頭のキャスターの質問も、このような懸念を抱いてのことなのでしょう。

■日本が本当におそれているものは何か

排出量取引の市場設計でのマネーゲーム論はピントを外している?(写真はイメージ)

排出量取引の市場設計でのマネーゲーム論はピントを外している?(写真はイメージ)

 こうした「マネーゲーム」に対する懸念は、昨今の原油高や、ここに来て特に激しく揺れ動いている金融危機を見るにつけ、かなりの説得力を持って多くの人に受け入れられるのではないかと思われます。しかしながら、個人的には、このような懸念と結びつけて排出量取引導入の是非を議論することに、どうにもピント外れな印象を受けてしまいます。

 一般に、市場では排出権に限らず相場操縦のような行為が禁じられているので、価格は基本的にその時時の需給を反映していると言えます。その際、投機資金が流入して需給状況が誇張されると、モノの価格が高騰するなど、私たちの生活が影響を受けることになります。ですから、とかく実需を伴わない取引が悪者扱いされるわけです。

 しかし実際には、実需家であっても例えば調達単価を下げたり、在庫の資産価値の目減りを防いだりする目的で、取引を繰り返すようなことは、コモディティの世界ではごく当たり前の風景であり、実需を伴わない取引を禁じるのは現実的な議論とは言えません。

 一方、かつての日本や最近の米国のように、いわゆるバブルやバブル崩壊によって実体経済が振り回される事態は出来るだけ避けなければなりませんが、これまでの議論を観察する限り、バブルの原因は過剰流動性に端を発しているのであり、投機規模の拡大はその結果に過ぎません。米国住宅バブル崩壊前後から最近にかけての原油価格の推移からも、その辺りは感じられるのではないでしょうか。

 つまり、マネーゲームは金融政策や景気対策で制御するのが本筋であって、排出量取引の市場設計で対処する発想には無理があると思われます。排出量取引における「マネーゲーム論」がどことなくピントを外している理由は、この辺りにありそうです。

 ちなみに、排出権の取引を物理的に制限したり、そもそも排出権の価格付けを放棄する、といったアイデアもありうるでしょう。しかし、本質的には価格形成を歪めているだけであり、排出権の売り手ないし買い手のいずれかにとって極端に有利/不利な市場となり兼ねません。

[2008年9月30日/Ecolomy]

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