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首都圏の手軽な登山コースに異変 酸性「霧」で枯れる丹沢の山林――井川学・神奈川大教授に聞く
首都圏の手軽な登山コースとして親しまれている神奈川県の丹沢山系で、山林の立ち枯れに代表される森林の衰退が目立っている。環境破壊の“主犯”と考えられているのが酸性の霧。現地で20年以上にわたって酸性霧を観測している神奈川大学工学部の井川学教授に、何が起きているのか、どんな対策が必要なのかを聞いた。 ■酸性雨被害ではない ――山林被害の実態は? 樹木の衰退度を0〜4の5段階にわけて調査した神奈川県の報告では、衰退度0〜1の健全な樹木の割合で比較すると、丹沢の玄関口である大山(標高1252メートル)の裏手にあたる札掛のモミ原生林では1980年に95%だったのに対して、90年には37.5%に急減した。丹沢山系の最高峰である蛭ヶ岳(同1673メートル)のブナ林の健全度は69年に91%だったのに、80年は56%、90年は32%と減り続けている。山頂付近では立ち枯れが目立ち、枯れ木のオブジェに変わり果てている姿は異常だ。 立ち枯れの原因としてよく酸性雨被害が挙げられるが、われわれはそうではないと考えている。雨の酸性度を示すpH値は4.6〜4.7程度で、それほど高くはないからだ。オゾンの影響もとりざたされるが、立ち枯れに至る濃度は200〜300ppbぐらい。現状の濃度は40〜100ppbであり、この程度なら枯れるまでには至らないし、同様な濃度でありながら東側斜面に健全なブナ林が残っていることを説明できない。
■葉の表面成分が溶出 ――で、酸性霧の影響が大きいわけですね。 丹沢山系は南寄りの風に乗って霧が発生する。霧の液滴は雨より小さく、重さあたりの表面積が雨より大きくなり、表面から酸性成分が溶け込みやすい。霧の実態を把握するため、88年に自動霧水採取装置を大山に設けて観測を始めた。その結果、大山の山頂は年間平均で46%は霧で覆われることが分かった。pH4以下の強酸性の酸性霧が頻繁に発生しており、pH3を下回ることも珍しくない。酸性成分は首都圏で自動車や工場などから発生する窒素酸化物(NOx)が原因だ。 その霧が樹冠に衝突して落ちてくる液滴を「樹雨」という。雨が降っていないのに、登山道の横にポツポツと落ちてくるのが樹雨だ。樹雨があるために、山林内の降水量(林内雨)は平地の2倍にもなり、その降水量は地形に強く依存する。酸性霧を受け止める葉がどんな影響を受けるか、モミの葉で実験してみたら、表面のワックス層が変化した。葉の厚みは変わらなくても重さは減り、ワックス中の小さな分子成分が溶け出していた。 強い酸性霧に1年以上さらすと葉の内部まで様々な影響が出る。そうした影響が積み重なって林内雨の多い場所では立ち枯れに至るようだ。一方で、丹沢で立ち枯れが見られないスギの実験では影響が出なかったので、植物間に差があることも分かった。酸性霧の実態もメカニズムの解明もひとくぎりがついたといえる。
■市民参加で山奥の観測を期待 ――これからはどのような活動を? この結果を広く市民に伝えるのがひとつ。もうひとつは、酸性霧が丹沢の奥にどれだけ広がっているかを調べたい。林内雨と林外雨の採取装置は大山に全部でおよそ30個あり、大山中腹の装置からは試料を週に1度回収。山頂を含めた異なる標高の試料は月に1度回収している。丹沢のほかの山に50個もあると分布状況が分かるようになる。われわれの手では回収できないので、山好きの市民の方にボランティアで参加してもらえないか、と考えている。 どうしたらこんな酸性霧被害をなくせるか。それは大気汚染の改善に尽きる。排ガス規制の強化で、NOxの排出は徐々に下がっている。ただし大気環境全般が改善されているとは言いがたい。例えばオゾン濃度は着実に高まっている。森林の衰退の原因は主には地域の問題だが、中国から流れてくる汚染物質も増えているので、国際間で排出規制を取り決める必要も出てくるだろう。 [2009年11月16日/電子報道部解説委員・池辺 豊] 「インタビュー」最新記事民主党政権は温室効果ガス25%削減を達成できるか |
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